麻薬に溺れる退廃的な若者たちを描いた『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞、その後ヒット作を出し続ける天才作家、村上龍の凄さを語る関係者の声をまとめてみた。
村上春樹(小説家)
村上龍と同世代の作家、村上春樹。デビュー当時、村上龍が芥川賞を受賞しスターとなったのに対して、村上春樹はなかなか文壇に認められず、ジャズ喫茶をやりながら文筆活動を行っていた。
2人は友人関係で、村上龍はよく春樹のやっているジャズ喫茶に通っていたのだと言う。
そんな中、村上春樹が小説家1本で生きていくことを決めたのが、ライバルの村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』を読んだからだと言われている。
本作は春樹に圧倒的な影響を与えて、「自分もこんな小説を描きたい」とジャズ喫茶を廃業することのきっかけになった。
春樹は村上龍との対談で『コインロッカー・ベイビーズ』に受けた衝撃をこう語っている。
(村上龍VS村上春樹 『ウォーク・ドント・ラン』)
春樹:あれはね、やっぱり一気に読んじゃったんだな、おもしろかったし、六、七時間位で、それで読み終えたあとで二、三日、うーん、おもしろかったな、って感じでぼんやりしてたんだけど、しばらく時間が経ってから、ある種のショックがありましたよね。空気の壁のような何かにぶつかったみたい。何にぶつかったのかはまだうまくつかめてないけれど。

村上龍の作品に強烈なショックを受けた春樹は、専業作家となり、『羊をめぐる冒険』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を発表。文壇での評価を確実なものとした。
又吉直樹(小説家・芸人)
『火花』で芥川賞作家となった芸人、又吉直樹は高校時代に衝撃を受けた読書体験が村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』だったと語る。
当時、電車で50分かけて通学していた又吉。紙に印刷された文字を追うだけで、まったく知らない世界が広がることに学生の又吉は衝撃を受けたという。
当時はそこまで本を読んでいなかったという又吉。
村上龍から「言葉だけで新しい世界をつくりだすことができる」ことを知ったという。
又吉直樹『第2図書係補佐』
又吉:紙に印刷されたインクのしみを追うだけで、見たことのない時空が開ける。今暮らしている世の中の、別の階層が見えてくる。そのことに驚きすぎて、開いた口がふさがらないまま読み終えた。言葉で全く新しい世界が作れるのだと、私はこの本で知った。実は密かに〈小説における、私の初めてのひと〉と呼んでいる。

その後、又吉は『コインロッカー・ベイビーズ』文庫のコメント帯に「衝撃でした。物語が爆音で響いていました。永遠に読まれ続ける傑作です」と熱いコメントを寄せました。
金原ひとみ(作家)
『蛇にピアス』で芥川賞を受賞した金原ひとみも、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』に大きな影響を受けた一人だ。
金原は、『コインロッカー・ベイビーズ』のあとがきも執筆して、本作を激賞している。
金原はインタビューで本作の影響をこう語っている。
金原 : すごく衝撃があって、読んだあと放心状態になってしまって。たしか中1の時に読んだのですが、そこまで読後感が残る本ははじめてだったんです。
作家の読書道第33回 https://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi30.html
庵野秀明(映画監督)
『エヴァンゲリオン』シリーズなどで知られる庵野秀明も、村上龍に大きな影響を受けているようだ。
庵野が村上龍から受けた影響は作品の中に見られる。
・『エヴァンゲリオン』シリーズの登場人物、鈴原トウジと相田ケンスケの名前を『愛と幻想のファシズム』(村上龍)の2人の主人公からとっている。
・庵野秀明が実写初作品の原作は村上龍の『ラブ&ポップ』

庵野はメディアで「村上龍の影響」を明確に語ることは少ないが、尊敬の念があることは明らかだ。
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